ミラノ・コルティナ冬季五輪、フィギュアスケート男子シングル。 世界中が「4回転の神(Quad God)」の戴冠を疑わなかったその舞台で、私たちはスポーツの残酷さと、それ以上に美しい「人間の強さ」を目の当たりにしました。

1. 完璧なSPから、悪夢のフリーへ

ショートプログラム(SP)では108.16という圧倒的なスコアで首位に立ち、金メダルへ王手をかけたマリニン選手。しかし、2月13日のフリープログラム(FS)では、信じられない光景が広がりました。

冒頭の4回転アクセルが抜けてしまうミスから始まり、後半の転倒。追い打ちをかけるように、SNS上では過度な期待の裏返しとも言える厳しい批判が飛び交いました。結果は総合8位。演技後、キス・アンド・クライで頭を抱え、ぼう然とする彼の姿に、世界中のファンが息を呑みました。

2. 「見えない戦い」との告白

その後、マリニン選手は自身のSNSで、沈黙を破り胸の内を明かしました。

「世界最大の舞台で、最も強く見える人間も、内側では見えない戦いを繰り広げている」 「耐えがたいプレッシャーと、心を引き裂くようなネット上の誹謗中傷」

弱冠21歳の彼が背負っていたものの重さは、想像を絶するものだったのでしょう。多くのファンが心配し、彼が氷上に戻ってくることを祈りました。

3. エキシビションでの「完全復活」

そして迎えた2月21日(日本時間22日)、エキシビションのリンクに彼の姿がありました。 そこにいたのは、プレッシャーに押しつぶされた少年ではなく、心から滑ることを楽しむ一人のスケーターでした。

添付した画像のような、躍動感あふれるバックフリップ! 競技の枠を超え、トレードマークのフーディーを纏い、荒々しくも瑞々しい感性で氷を駆ける姿。批判や失意をすべて跳ね除けるようなその力強い滑りに、会場からは割れんばかりの拍手が送られました。

今回の五輪で、彼はメダル以上に大切な「折れない心」を見せてくれた気がします。 どん底から立ち上がり、エキシビションで最高の笑顔を見せてくれた彼なら、きっとこの経験を糧に、さらに進化した「神の領域」へと連れて行ってくれるはずです。