1. 綾野剛と齋藤潤。この二人でなければ成立しなかった「距離感」
    まず語るべきは、キャスティングの妙です。少し影のあるアウトロー、狂児を演じた綾野剛さん。ヤクザという役どころながら、どこか憎めないチャーミングさと、大人の余裕(と危うさ)が同居した姿はまさにハマり役。

対する合唱部部長・聡実を演じた齋藤潤くんが、これまた素晴らしい。変声期に悩む少年のヒリヒリとした内面を、過剰な演技ではなく、その佇まいや眼差しで表現していました。二人の間に流れる「名前のつかない絆」は、下手なロードムービーよりもずっと遠くまで連れて行ってくれるような感覚がありました。

  1. 心地よく響く「ずけずけとした関西弁」
    全編にわたって流れる、あのテンポの良い関西弁。時に鋭く、時に温かく、相手の懐にずけずけと入ってくるあの言葉の響きが、作品のシュールな笑いと切なさをより引き立てていました。

狂児の「カラオケ行こ!」という強引な一言から始まる物語も、あの関西弁の調子だからこそ、聡実くん(と観客)はつい付いていってしまったのかもしれません。

  1. 主人公を取り囲む「愛すべき人々」の描き方
    主人公の二人だけでなく、彼らを取り囲む人々も丁寧に描かれていました。歌唱力に絶望的な難があるヤクザたちのコミカルな姿や、聡実くんを優しく(あるいは無神経に)見守る合唱部の面々。

特に映画オリジナル要素である「映画を見る部」の部長とのやり取りなどは、山下監督らしい「何でもないけれど、かけがえのない時間」が凝縮されていました。山下監督が撮る青春映画は、やはり最高です。

  1. 私にとって「紅」が特別な曲になった
    そして、何といってもX JAPANの「紅」。 これまで何度も耳にしてきた名曲ですが、この映画を観た後は、もう以前と同じ気持ちでは聴けません。

狂児が裏声で熱唱する(あの独特な)「紅」も、そしてラストで聡実くんが全てをぶつける「紅」も。滑稽なのに、涙が止まらない。一つの曲が、これほどまでに物語の感情を背負い、輝きを放つ瞬間を私は知りませんでした。