街の片隅、誰も気に留めないような細い路地に、一匹のヨークシャーテリアが住んでいた。名前はアドゥ。かつては飼い犬だったが、ある日、突然捨てられてしまった。首輪もなく、ただ小さな体で寒さと空腹に耐えながら、必死に生きていた。

アドゥは、人間を警戒しながらも、どこかで優しさを求めていた。パン屋の裏で落ちてくるパンくずを待ち、レストランのごみ箱を漁る日々。そんな彼を、遠くから見つめる少年がいた。

少年の名前はハル。彼もまた、孤独を抱えていた。両親は共働きで家にいることは少なく、学校でもあまり友達がいなかった。ある日、ハルはアドゥが冷たい雨の中、震えながら身を寄せているのを見つけた。

「おいで、怖くないよ。」

そっと手を差し出すと、アドゥは警戒しながらも、一歩ずつ近づいてきた。そして、その小さな鼻でハルの指先をそっと嗅いだ。

それが、二人の物語の始まりだった。

ハルは毎日、アドゥに会いに来るようになった。こっそりお弁当のパンを分けたり、静かに話しかけたりした。アドゥも次第に心を開き、尻尾を振るようになった。

ある日、アドゥはハルに向かって、小さく「ワン」と鳴いた。それはまるで、「ありがとう」と言っているようだった。

だが、平穏な日々は長くは続かなかった。ある日、町の清掃員が「野良犬は危険だ」と言い、アドゥを捕まえようとしたのだ。

ハルは必死に訴えた。

「アドゥは悪い子じゃない!僕の大切な友達なんだ!」

だが、大人たちは聞く耳を持たない。追い詰められたアドゥは、必死に逃げた。

アドゥはどこにもいなかった。ハルは町中を探し回ったが、見つからない。

「アドゥ……どこにいるの?」

その夜、ハルは公園のベンチに座り、涙をこぼした。すると、小さな足音が聞こえた。

アドゥだった。

泥だらけで傷ついていたが、必死にハルの元へ戻ってきたのだ。ハルはアドゥを抱きしめ、涙ながらに誓った。

「もう絶対に離れない。僕が君の家になる。」

それから、ハルは両親に頼み込み、アドゥを家族として迎え入れた。最初は反対していた両親も、アドゥの健気な姿を見て、次第に心を許していった。

こうして、野良ヨーキーだったアドゥは、ついに本当の「家族」を手に入れたのだった。